服部大次郎の日々雑感2024⇦2006

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春夏秋冬そして春

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春夏秋冬そして春」2003年 韓国・ドイツ 監督:キム・ギドク  深い山間の湖に浮かぶ小さな寺。 大自然の懐で幼子と老僧が2人で暮らしている。幼子はカエル、蛇、魚を捕まえては縛り石のおもりをつけるいたずらをする。老僧にひどくしかられ、命の尊さ業の重さを知っていく。 少年も思春期にさしかかり、庵に逗留した少女と性に目覚め、やがて、寺を出ていく。 そして、再び、もどってくるが、殺人者となっていた。 刑事が逮捕にやってくる。 老僧は庵の床板に般若心経を書き、それを殺人者にナイフで彫るように命ずる。 夜を徹して彫り上げる。刑事たちも文字の着色を手伝うのであった。 この行程は迫力あり現代アートを見ているようだった。 密告した老僧は独り湖上で焼身する。 冬、刑期を終えた男(ここから監督自身が出演)が、山門から氷りとなった湖の庵にもどってくる。 そして、修行に明け暮れる。お経をあげ、肉体を鍛え、氷った瀧に観音像を彫り次第に男は僧の顔に変わっていく。 ある日赤ん坊を連れた女がやってくるが、赤ん坊を残したまま、湖の氷りの穴に落ちて亡くなる。 女の弔いと自らの業に対し、冬山での荒行を敢行する。 上半身裸で、弥勒菩薩を胸に抱き、腰に荒縄巻いて大きな石を引きずり、氷結した雪山を巡り歩く。 このシーンで延々と流れる民謡のアリランが静けさを破って読経のようでも叫びのようでもあり、いっしょに歌いたくなる。 四季はめぐりそして春。 無邪気な幼子が庵の床板の上で亀にいたずらをして遊んでいる。 それを僧になった男はあの日自分を見るかのように幼子の絵を描くのだった。 輪廻転生とでもいうのであろうか。 美しい静寂の四季を背景に蛇の交尾、思春期の性交がエネネルギッシュに描かれている。 俗世間の煩悩が山奥の庵と無関係ではなくなっていく。朝鮮の恨(はん)か、儒教の業なのか。 三島の「炎上」の若い僧のようでもあり、筋肉と耽美的なところは正に三島。 反すうし内省し沈静さしていっても、なおかつ心の中から消えるモノではない。まさしく、それが心を癒し、時にオブラートする四季の美しさとでもいうのだろうか。風景とパラドックスな人間の業。静寂と虫けらの性交。一寸の虫も五分の熱気。 徴兵の後、パリに渡り絵の勉強をしたと言うが、キム・ギドクとは、一体何者だ。