服部大次郎の日々雑感2024⇦2006

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明るい暗い

<明るい暗い>
日暮里の狭く汚いアパート。同窓の島ノ江檀が半ば家出同然でここに棲んで、印刷屋の活版組を辞め、その時は上野の映画館のフィルム運びを自転車でやってた。彼の隣りに鞄職人の中さんがいた。ミシン一つで皮革を縫い合わせ西部デパート用の女性の鞄を作っていた。やせ形でで年齢は僕等より5ぐらい上だろうか。島ノ江君に親切な人だった。同じく浪人のボクも彼のところが気に入ってよく遊びにいき、なけなしのお金で狂ったように呑んでた。いつか中さんがボクらに韓国の食堂でおごってくれた。豚足蒸(とんそくじゅう)がおいしいと、しかし、その豚の足を見てびっくりした。今思えば、韓国の人だったんだろう。中さんは言う、「島ノ江君は、(絵が)暗いだろうが、服部君は明るいでしょう」と素敵な笑顔で言われるので、つい「はい」と答えた。僕らの絵など見たこともないのに、絵のことに触れてくれるだけで、後の評論家に褒められたように、酒っていいな・・と呑むのが大好きになった。
 中さんは、普段休憩するときは、近くの「白鳥」という喫茶店でクラシックを聴くのが楽しみの人だった。最近、彫刻をやってる女性から「絵が明るくなられましたね」と「えっつ!!何のこと!?」。一気に50年以上前にさかのぼって、中さんを思い出していた。自分では考えたことないけど、明るい暗いって意外に大切なことかもしれないと。それにしても中さんも島ノ江檀ももういない。描くって好きに自由でイイけれど、生きてる以上は何かを背負いそれも面白く、たとえ棘小路と言えども、同行二人、いや同行10人ぐらいで歩いているのかも知れん。
作品は「Ukraine」F6アクリル