服部大次郎の日々雑感2024⇦2006

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狭き門より

さて、案内所で宿を当ってもらう。宿坊がほとんどだが、ビジネス旅館が街はずれの奥の院の沿道にあった。
「夕食の事ですが、5時には街の食堂は閉まります。こことここが開いてますからと」宿の主人は地図で教えてくれた。
街のスクランブル交差点の角にある食堂で遅い昼食。カレーライス。にわか雨がはげしく降る。開け放たれた戸窓に走り急ぐ人々がなつかしい風景を演出する。
店内に幼い女の子がいて、お客の注文を取ったり、親子の客に水を出したり、会計までしたりと気のきく童子である。が、両親はいないらしく、店主のおばあちゃんが面倒を見ているようである。一人で何役もの声を出し、一人で遊んでは、お客の注文を取りに来る。そのうち元気な賢い子もむずがって、べそをかきはじめる。
奥の住まいから泣き声が終わりそうで終わらない。
奥のトイレに行く時、中庭を覗くと、縁側で女の子は裸になり、服をきれいにたたみ泣いているのであった。おばあさんが服を着せ変え諭しているが、泣きやむ気配もない。ずっとこらえていたものが、抑えきれず堰を切って噴出したのであろう。中庭の縁側に坐し、小さな幼女が裸で声が涸れ果てるまで泣いている。遠い昔に見たような、映画の中で見たような、えも言われぬくやしさの発露の体感。繰り返し押し寄せる波のように波頭を乗り越えても繰り返し波は身体に弾け散る。
雨も止み店を出るころには客もなく、女の子の泣き声も止んでいた。