服部大次郎の日々雑感2024⇦2006

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ギンヤンマの空

滑走路と平行に堤防が走る。堤防から顔を出すと有明海の干潟が広がっている。濡れた干潟のあちこちに金属的な白い反射がある。それさえをカッコいいとおもはなければ、ただの泥の海。臭いもなければ、毎日太陽に殺菌され、有機物いっぱいの泥パックができる。干潟表面の藻を主食とするムツゴロウが見渡す限りうじゃうじゃいて、お散歩、ジャンプしている。沖の海苔ヒビの川を白い漁船が往来する。なくしてはいけない風景だ。クリークでギンヤンマのカップルが産卵していた。それを捕ろうと補虫網を取り出したところへ、後ろから「この土地はだれのですか・・?」。赤い車で通りかかったおやじさんであった。確かにクリークとクリークの間にチェーンが渡してあり、進入禁止になってる。荒地の中に泥山が散在し、資材置き場のようでもある。「この辺の者ではないから判りません」。「ああ、そうですか、どうも」とおやじは去って行った。畑や稲田しかないようなところに放置された土地があるというのは、言われてみれば変だし、不気味である。しかし、訊ねた男も何者なんだ。おかげでギンヤンマのカップルを見失った。着水した辺りを角度を変えたんねんに調べるとなんと、目の前の枯れた葦クズが浮かぶ上んにいるではないか。ギンヤンマは水草にも枯れ草にも対応できる保護色であるようだ。あわてず、そっと補虫網で葦クズもろともかぶせすくった。カシャガシャカシャ、少年の日を呼び起こす胸躍るギンヤンマの羽音である。コンポーズブルーの腹をしたオス。そしてライトエメラルドの腹をしたメス。尾はオスより一回り太く赤味をおび、アメ色の羽には充足した遠い日の憧れがつまっている。2頭を重ね、口にくわえ、空を仰ぐ・・・。「よし・・」1頭づつ空に放った。ゆっくりと秋空に舞い上がり、点となり消えていった。